孤独な守護者 〜怪人ダークナイトの物語〜

孤独な守護者

〜怪人ダークナイトの物語〜

序章 五対一の絶望

また今日も、この不平等な戦いが始まる。

五色の光が私を取り囲み、それぞれが得意な攻撃パターンで襲いかかってくる。赤いリーダー格が正面から、青が左翼から、黄色が右翼から、そして緑とピンクが背後から——まるで狼の群れが一匹の獲物を狩るように。

「今日こそ決着をつける!」赤い戦士の声が響く。

決着? いつも五人がかりで私一人を相手にして、それを正義と呼ぶのか?

私の名前はダークナイト。この街の人々が恐れる怪人として知られている。だが、誰も知らない。この黒い仮面の下に隠された真実を。この孤独な戦いの本当の意味を。

青い戦士の氷の攻撃が頬を掠める。冷たい。まるで、あの日から凍り付いてしまった私の心のように。

「君を守るから、もう泣かないで」

幼い声がよみがえる。青い瞳をした少年の、優しい笑顔と共に——

いや、今はその時ではない。この戦いに集中しなければ。また今日も、組織からの指令通り、適度に暴れて撤退するのだ。誰にも知られることなく。誰にも理解されることなく。

だが、なぜだろう。青い戦士を見ていると、胸の奥が痛む。まるで大切な何かを失ってしまったような、そんな痛みが——

* * *

第一章 闇に堕ちた理由

組織への加入

私がダークシャドウ組織に拾われたのは、十五歳の時だった。家族を事故で失い、天涯孤独となった私を、組織の幹部ゼネラル・ブラックが「特別な才能がある」と言って引き取ってくれた。

「君には、人を守る力がある。だが、時として守るためには悪役になることも必要なのだ」

ゼネラル・ブラックの言葉を、当時の私は完全には理解できなかった。だが、行き場のない私には、他に選択肢はなかった。

組織での訓練は過酷だった。体術、戦闘技術、そして最も重要とされた「感情の制御」。私は優秀だったらしい。誰よりも早く技術を習得し、誰よりも冷静に任務をこなせるようになった。

しかし、組織にいる間も、私の心の奥には常に一つの疑問があった。

なぜ、あの青い瞳の少年のことを忘れられないのだろう?

あの小さな手の温もりを、なぜこんなにも鮮明に覚えているのだろう?

初任務の記憶

初めて街に送り出された日、私は戸惑った。

「適度に暴れろ。だが、決して人を傷つけるな。ヒーロー戦隊が現れたら、彼らと戦え。しかし、勝ってはならない」

矛盾だらけの指令だった。なぜ勝ってはいけないのか?なぜ人を傷つけてはいけないのか?

「君にはまだ話せない事情がある。だが、いつか必ず分かる日が来る。その時まで、信じて任務を遂行してくれ」

ゼネラル・ブラックの表情は、なぜか悲しげだった。まるで、私に謝罪しているかのような——

そして、運命の日がやってきた。ファイブレンジャーとの初遭遇の日が。

* * *

第二章 宿敵との邂逅

ファイブレンジャー登場

街の中央広場で「演技」をしていた時、彼らが現れた。

「そこまでだ、ダークナイト!」

五つの光が空から舞い降りる。レッドファイア、ブルーウォーター、イエローサンダー、グリーンアース、ピンクウィンド——この街を守る正義のヒーロー戦隊。

だが、私の目はブルーウォーターに釘付けになった。

あの体型、あの声、そして何より——仮面の下から見える、あの青い瞳。

「大丈夫?怪我はない?」

公園の片隅で、三人の上級生にいじめられていた私を助けてくれた少年。

「僕の名前は蒼太。君の名前は?」

「た、拓也です……」

「拓也くん、一緒に帰ろう」

蒼太——

心の中でその名前を呟いた瞬間、動揺で攻撃の手が止まった。

「隙あり!」

レッドファイアの炎の拳が私の胸を捉える。だが、痛みよりも驚きの方が大きかった。

ブルーウォーター——蒼太は、私を認識していない。当然だろう。十二年前の小学生だった私と、今の怪人の姿では。

複雑な戦闘

「みんな、フォーメーションB!」レッドファイアの指示が飛ぶ。

五人が連携して私を包囲する。いつものパターンだった。決して一対一では戦わない。常に数的優位を保つ。

「卑怯だ」思わず口に出してしまった。

「卑怯?悪を倒すのに卑怯も何もない!」イエローサンダーが雷撃を放つ。

私は悲しくなった。確かに表面上は私が悪で彼らが正義だ。だが、真実を知れば——

「待て」と言いたかった。「話を聞いてくれ」と叫びたかった。だが、組織との約束がある。そして何より、蒼太を危険に巻き込むわけにはいかない。

ブルーウォーターの氷の槍が私の左肩を貫く。

「君を守るから、もう泣かないで」

あの日の約束の言葉が、皮肉にも今は攻撃となって私を傷つける。

「撤退だ」

組織特製の煙幕を炊いて、私はその場を後にした。一人で。いつものように、一人で。

* * *

第三章 記憶の欠片

蒼太への想い

基地に戻った私は、傷の手当てをしながら過去を思い出していた。

小学三年生の春。転校生の私は、すぐにいじめの標的になった。

「お前の親、死んだんだって?」

「気持ち悪いよね、親のいない奴って」

毎日のように続く陰湿ないじめ。誰も助けてくれない。先生も見て見ぬふり。

そんな時、蒼太が現れた。

「やめろよ、そんなことして楽しいか?」

一人で三人に立ち向かう蒼太。結果的に彼も殴られたけれど、私を庇い続けてくれた。

「蒼太……」

彼は私の初めての、そして唯一の親友だった。

「拓也くん、将来何になりたい?」

「僕は、困っている人を助けるヒーローになりたいな」

「僕も!一緒にヒーローになろう!」

「約束だよ、蒼太くん」

「うん、約束!」

あの時の純粋な約束。まさか、こんな形で再会することになるなんて——

組織の真実

その夜、ゼネラル・ブラックが私の部屋を訪れた。

「今日の戦闘、お疲れ様だった」

「ゼネラル、一つ聞きたいことがあります」

「何だ?」

「なぜ私は、いつも一人で送り出されるのですか?他の怪人たちには仲間がいるのに」

ゼネラル・ブラックの表情が曇った。

「それは……君の任務が特別だからだ」

「特別?」

「拓也、君にはまだ話していないことがある。この組織の本当の目的について」

本当の目的?

「我々ダークシャドウは、確かに悪の組織として世間には知られている。だが、それは表向きの姿だ」

「どういう意味ですか?」

「我々の真の任務は、ヒーロー戦隊を育成することだ。彼らに戦う相手を与え、力を向上させ、真の脅威に備えさせる」

私は愕然とした。

「では、私の戦いは——」

「そうだ。君はファイブレンジャーの成長を促すため、あえて悪役を演じているのだ。そして君が一人で戦う理由は——」

ゼネラル・ブラックは立ち止まった。

「君が彼らの中の一人を、深く愛しているからだ」

* * *

第四章 裏切りと真実

衝撃の事実

「愛している?私が?」

「拓也、君は覚えていないのか?ブルーウォーターの正体を」

「彼は……蒼太です。私の幼馴染の」

「その通りだ。そして君がこの組織に来た本当の理由を覚えているか?」

私は首を振った。家族の事故死以外、記憶が曖昧だった。

「君の家族が事故に遭った日、実は蒼太も一緒にいた。君たちは一緒に遊んでいたんだ」

断片的な記憶が蘇る——

公園からの帰り道。蒼太と手を繋いで歩いていた。

「拓也くん、また明日も一緒に遊ぼう」

「うん!」

その時、トラックが——

「君は蒼太を庇って、頭を強く打った。記憶の一部を失ったが、命に別状はなかった。だが——」

「だが?」

「蒼太は自分のせいで君の家族が死に、君が記憶を失ったと思い込んでいる。彼も深い心の傷を負ったんだ」

私の心臓が激しく鼓動した。

「それで蒼太は、人を守るヒーローになることを決めた。君との約束を果たすために、そして贖罪のために」

組織の陰謀

「しかし、ゼネラル。それなら、なぜ私に真実を教えてくれなかったのですか?」

ゼネラル・ブラックの表情が急に険しくなった。

「実は、拓也……私にも隠していたことがある」

突然、部屋のドアが開いた。そこには組織の真のリーダー、ダークエンペラーが立っていた。

「ブラック、話しすぎだ」

「エンペラー様……」

「拓也よ、真実を教えてやろう。我々の本当の計画を」

ダークエンペラーの口から語られた真実は、私の想像を絶するものだった。

「ファイブレンジャーが十分に強くなったら、我々は本当の侵略を開始する。その時、君には彼らを倒してもらう」

「そんな……」

「君の戦闘データは全て蓄積されている。彼らの弱点も全て把握した。君なら一人で五人全員を倒せるだろう」

「私は、そんなつもりで戦っていたわけではありません!」

「つもりなど関係ない。君は我々の兵器だ」

その時、ゼネラル・ブラックが立ち上がった。

「エンペラー、これ以上拓也を利用するのは許さん!」

「ほう、反逆か?」

ダークエンペラーの攻撃がゼネラル・ブラックを貫いた。

「ゼネラル!」

倒れゆく彼は、最後の力で私に何かを手渡した。小さな青いペンダント——

「これは……蒼太が君にくれた物だ……思い出せ、拓也……君の本当の気持ちを……」

* * *

第五章 記憶の覚醒

ペンダントの記憶

青いペンダントを握りしめた瞬間、封印されていた記憶が一気に蘇った。

小学四年生の誕生日。蒼太が私にくれたプレゼント。

「拓也くん、これお守り。いつまでも友達でいようね」

「蒼太くん、ありがとう。大切にする」

そして事故の日——

トラックが蒼太に向かってくる。私は咄嗟に彼を突き飛ばした。

「拓也くん!」

蒼太の叫び声。それが最後に聞いた彼の声だった。

「思い出した……全部思い出した……」

私は蒼太を守るために自分を犠牲にした。それなのに、彼は自分を責め続けている。

「ダークエンペラー、私はもうあなたの言いなりにはなりません」

「フン、感傷的な記憶を取り戻したくらいで調子に乗るな」

ダークエンペラーが真の力を解放する。だが、私にはもう迷いがなかった。

最後の戦い

組織の基地が爆発音と共に崩れ始めた。ダークエンペラーとの戦いの余波だった。

その時、外からファイブレンジャーの声が聞こえた。

「この建物に誰かいるのか?」

「反応があります、ブルー!」

蒼太だ。彼が助けに来てくれた。

「ダークナイト!無事か?」

ブルーウォーターが瓦礫を押し退けて現れた。敵であるはずの私を心配してくれている。

「なぜ……なぜ私を助けるんですか?」

「理由なんてない。人が困っていたら助ける。それがヒーローだろ?」

あの日と同じだった。理由なく私を助けてくれた、優しい蒼太のまま。

「それに……君からは不思議と懐かしい感じがするんだ。まるで昔の友達みたいな——」

その時、ダークエンペラーが最後の攻撃を仕掛けてきた。狙いはブルーウォーター——蒼太だった。

「危ない!」

私は蒼太の前に立ちはだかった。あの日と同じように。今度こそ、彼を守るために。

* * *

終章 奇跡の再会

仮面の下の真実

ダークエンペラーの攻撃が私を貫いた。だが、蒼太は無事だった。それで十分だった。

「ダークナイト!しっかりしろ!」

蒼太が私を抱き起こしてくれる。暖かい。あの日と同じ、優しい温もり。

「どうして……どうして僕を庇ったんだ?」

「それは……君が大切な人だからです」

私の仮面にひびが入り、崩れ落ちた。十二年ぶりに、素顔を蒼太に見せることになった。

「え……まさか……拓也?拓也なのか?」

蒼太の青い瞳に、涙が浮かんでいた。

「久しぶりだね、蒼太くん」

「拓也!本当に拓也なんだな!生きていたんだ!」

彼も仮面を外した。少し大人になったけれど、あの優しい顔は変わっていなかった。

十二年越しの謝罪

「拓也、ごめん……ごめんよ……」

蒼太が泣きながら謝る。

「僕のせいで、君の家族が……君が記憶を失ったのも僕のせいで……」

「違うよ、蒼太くん」

「え?」

「僕は君を守りたくて、あの時も今も。それが僕の意志だった。君のせいじゃない」

「拓也……」

「それに、君は約束を守ってくれた。困っている人を助けるヒーローになるって約束」

「でも君は……」

「僕も守ったよ。君を守るヒーローになった。たとえ悪役と呼ばれても」

新たな始まり

ダークエンペラーは他のファイブレンジャーメンバーによって倒された。組織は壊滅した。

私の傷は重かったが、命に別条はなかった。そして何より、十二年ぶりに親友と再会できた。

「拓也、これからどうする?」

病院のベッドで、蒼太が聞いてくれた。

「分からない。もう怪人でもないし、普通の人に戻れるかも分からない」

「それなら、僕たちと一緒に戦わないか?」

「え?」

「ファイブレンジャーの六人目として。シックスレンジャー・ダークナイトとして」

蒼太の提案に、他のメンバーも賛成してくれた。

「君の強さも優しさも、本物だった」レッドファイアが言ってくれた。

「一人で戦い続けた君の気持ち、痛いほど分かる」イエローサンダーも。

「今度は一緒に戦おう」グリーンアースとピンクウィンドも。

真の仲間

それから一年後。私はシックスレンジャー・ダークナイトとして、街の平和を守っている。

もう一人で戦う必要はない。五人の仲間と、そして何より蒼太と一緒に。

あの青いペンダントは、今も私の胸に輝いている。友情の証として。守り続けた絆の証として。

「拓也、今日も一緒に戦おう」

「うん、蒼太くん。約束通り、困っている人を助けよう」

かつて怪人と呼ばれた私は、ついに真のヒーローになれた。一人ぼっちの戦いは終わった。

仲間がいる。大切な人がいる。守るべき人々がいる。

これからは、誰も一人にしない。誰も置き去りにしない。

孤独な守護者の物語は終わり、真の仲間たちの新しい物語が始まった。

あ、ひとつ言い忘れていたが、相手が一人の時は、まず私が一人で戦うことを他の5人には承諾してもらった。

これで、相手も、今までの私のように不平等な戦いとは思わなくて済むだろう。

~完~

時として、真の正義とは悪役を演じることかもしれない。
時として、真の愛とは一人で戦い続けることかもしれない。
だが、最後に勝利するのは、決して諦めない心と、
変わることのない絆なのだ。

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